読んだ本の感想
今回の感想は
「密室の鍵貸します」
「方丈記」
の2冊。
密室の鍵貸します (光文社文庫) 著者:東川篤哉 出版社:光文社
二つの殺人事件の容疑者とされてしまった主人公が、警察から逃れながら事件の真相を追うミステリー小説。
「この人が犯人かな」と思いながら読んでいたが、トリックや動機は予想できなかった。事件解決の手がかりか?と思われた情報が、読み進めていくと否定される。「結局どうなるんだろう?」という期待感に煽られながら一気に読んだ。
謎解きの過程では焦らされ、最終的なトリックも肩透かしでなく、いいミステリー小説だと思った。
主人公が容疑者となる展開。ともすればストレスフルなストーリーになってしまうが、今作はそんなことはない。ひょうひょうとしたキャラクターたちとユーモアあふれる文章のおかげでサクサクと読み進めることができる。
主人公と警察、双方の視点から物語が展開される。すれ違いつつもお互いを認識しない様子はコントのようでもある。
「方丈記」 (光文社古典新訳文庫) 著者:鴨長明(訳.蜂飼耳) 出版社:光文社
約800年前、鎌倉時代に書かれた随筆「方丈記」を現代語訳で読むことができる。原文も載っており、現代語訳と比べながら読んでみるのもおもしろい。
学生の頃、古文の教科書に載っていた「方丈記」。あれから10年近く経った今、この古典作品を自分から手に取るとは思ってもみなかった。随筆・エッセイとして、分かりやすく親しみやすく訳されていて読みやすい。
かつて栄華を誇った都から離れ、郊外に簡素な草庵を作って残りの人生を過ごした男性の随筆。疲弊した男性の独り言、そんな印象を受けた。自身の生活を肯定しつつも、それが強がりのようにも見え、切実でありながらいっそコミカルにすら思えた。
「方丈記」自体、そんなに長い文章ではない。訳者曰く、『四百字詰め原稿用紙で二十数枚程度の文量』。あっさりと読める。それだけに、最後の一文を読んだとき、「え、これだけ?」と思った。この短い「方丈記」が、800年経った今なお読み継がれているという事実に驚いた。
本の冒頭の訳者まえがきにひっぱられ、「疲弊した男性の強がり」のような印象を受けた。最初に現代語訳を読み、それから訳者まえがきを読んでいたら違った読書体験ができたと思う。
とは言え、読んでいてとても楽しかった。訳者の言う通り、「自分の暮らしに葛藤を抱えながら書いたのかもしれない」と思いながら読むと、鴨長明という人が過去の人ではなくなり、親しみの持てる魅力的な人に思えてくる。だから、彼が言おうとしていること、言葉だけでなくその裏にある感情まで読み取りたいと、夢中で読んだ。
数度の挫折を経験した末、ついには世間を捨て都から離れたものの、やっぱり自分と他人を比べてしまう。そんな迷い・葛藤が、たしかに伝わってきた。