ただの雑記です

ニート時代に自衛隊に勧誘された話

2024/05/10
 
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25歳の男。宮城県出身。 大学院に進学するも一瞬で体調を崩し、以降2年ほどニートしてました。 今年から栃木県の那須塩原市にて派遣社員として働いています。 趣味は小説を読むこと、温泉巡り。 ミドリガメを飼っています。

僕は大学院の休学時代も含めると、ニートを2年ほどしていた。

その間、特に何をするでもなく、散歩したりカメの世話をしたりネット世界に入り浸ったりしていた。

別に引きこもっていたわけではなく、車の運転もできたので暇なときはちょっと遠出したり、民宿をやっている親戚から手伝いを頼まれれば行っていた。

一方でなかなかに人見知りで、コンビニで会計をするときでも緊張して挙動がおかしくなることもあった。

 

そんな風に、なにをするでもなく外を出歩く僕を両親はよくほっといたものだと思う。

公務員試験を勧めてきたりもしたけど、結局受からなかった僕に対しても急かすようなことは何ひとつ言わなかった。

 

そのニート期間中にたったひとつ、母親からお願いされたことがある。

それは、当時、大学生だった弟と一緒に生活して、彼の生活の面倒を見てほしい、というものだった。

その頃の弟はちょっと生活がおぼつかなかったので、両親にとっては僕と弟と、特大の心配の種がふたつあった。

僕にとってもそのほうが就職活動しやすいから、断る理由もなかった。

 

といっても弟は大学生で日中は学校にいるから、僕が暇なのには変わりない。

塾のバイトを始めたりもしたけど、急にフルタイムとか始めても体力が続かないかなと思って、週2くらいのシフトだった。

今考えるともう少し頑張れ、と思う。

 

そんなわけで、当時の僕は住む街を変えてもちゃらんぽらんで、真昼間から本屋さんやイオンをうろつくダメな人間だった。

 

そんなある日、いつものように本屋で漫画を立ち読みして帰る道すがら、一台の車が近付いてきて、中の人が僕に声をかけてきた。

スーツを着た、やけにがっちりとした体つきの人だった。

言うまでもなく、その頃の僕に道で声をかけてくるような知り合いなんかいないし、まして平日昼間にちゃんとスーツを着るような真っ当な人なんか久しく相手にしていない。

 

なんだろうと思っているうちに会話は進み、気が付くと僕は相手の名刺を手に持っていた。

その名刺には「自衛隊」の文字。

 

自衛隊なんてテレビでしか見たことのなかった僕はわけが分からず、さらに生来のコミュ障も相まってひたすら「はい」とか「なるほど」としか答えられなかった。

そんな調子だからあれよあれよと会話のペースを握られ、携帯の番号を聞き出され(ほんとに僕の携帯の番号か確かめるために電話をかけるという徹底ぶり!)、言われるままに車に乗せられ年齢や住所を聞き出され、最終的に「いまはニートです」と自分から白状してしまう始末。

 

まあ勧誘なわけです。「自衛隊に入りませんか」っていう勧誘。

そんな人たちからすれば、平日の昼間に暇そうにふらついてるニートなんていい獲物なわけ。

入隊さえさせれば、その後のことは彼らに関係ないしなんでもいいから入れとけと。

だって僕なんて身体ヒョロヒョロですから。入隊しても役に立たないのは誰が見ても明らか。もちろんあからさまに「とりあえず入れとけ」っていう態度を取られたわけではなくて、むしろ僕のほうで勝手に妄想しただけなんだけど、いずれにせよ対応はかなり丁寧でした。

なんかこっちが申し訳なくなるくらい。

 

で、申し訳ないのは本当で、「自衛隊」って聞いた瞬間から僕の脳内辞書からは「入隊」の文字が削除されてるし、人を見た目で判断しちゃいけないのはわかってるけど自衛隊のおっさんなんか怖いし、早く帰りたかった。

なんやかんやでその日は、次の日に自衛隊の事務所に行っていろいろ見学するという約束を一方的に取り付けられて解散となった。

 

たぶん普通ならそれっきりで、次の日に待ち合わせ場所には行かずにバックレるという手段を取るんだと思う。

自衛隊に入る気がないならなおさらそうするべきだった。

僕にとっても自衛隊の方にとっても時間の無駄だし。

 

ところが当時の僕は何を思ったのか(というか何も考えてなくて、『約束したから行かないと』っていう意味のない義務感だけがあった)、次の日はきっちり10分前に待ち合わせ場所に行った。

 

そのまま車に乗せられて、到着したのはわりと手狭な事務所。小さな建設会社みたいな事務所だった。

中に入ると、まずテレビの前に案内されて、そこで自衛隊の部隊や活動内容を紹介する映像を見せられた。

部隊の紹介の時は「興味のある部隊の映像見せるよ」って言われて、でも自衛隊に全然興味なかったから適当に陸海空軍の映像見せてもらってたんだけど、ふと目に入ったのが音楽隊。

 

さっそく、「音楽隊の映像も見たいです」って言った。入隊する気ないけど(ていうか音楽隊は無理)、自衛隊の音楽隊ってどんなだろうって、完全に野次馬気分で「見たい」って言った。

そしたら自衛隊の人は、まあ当然だけど「はぁ?」みたいな反応をして、「いや、音楽隊には入れないよ?」って答えた。

それはわかってるけど、でもせっかくだから見たいし、「あ、はい。でも一応……」って返事したら見せてくれた。

 

我ながら「一応」ってなんだって思いながら映像見てたけど、内部向けの映像なんであんまり華やかではなかった。

演奏してるシーンとかほとんどないし、音楽学校出身の隊員のインタビューが流れたりかなり地味だった。

 

一通り映像を見終わると、今度は直接隊員の方から入隊するよう勧誘された。主に金銭面から。

「昼間運動してるだけでお金貯まるよ」とか「給料で弟においしいものごちそうしたいでしょ」とか「男ならやっぱ稼がないとねぇ」とか「私ハーレー乗ってるんですよ」とか、要は「こんだけお金稼げますよ」という話。

 

これだけ書いたら間違いなく下手な勧誘だけど、当時の僕の心理状態ではけっこう揺れた。

昼間ふらつくニートとは言え、のほほんとしてるわけではない。やっぱり将来に対する焦りはある。

そんなときにこういう、「簡単にお金稼げるよ」的な話って魅力的に聞こえる。

特に自衛隊って、イメージとか噂とかからだけどキツイだろうなぁってのはわかるから、その給料とか待遇に妙な説得力があって、「頑張ればそれなりの生活送れるんじゃないか」っていう気になってくる。

大学院で挫折した僕にとっては自尊心を取り戻す絶好のチャンスに思えた。

 

思えたけど、自分の根性のなさは自分がわかってるし、風のうわさでは、できない隊員はイジメられるとか聞いてたしやっぱやめとこうと思った。

でも断るタイミングがなくて、というか断ったとしてもアパートの部屋まで歩いて帰れる距離じゃないし、自衛隊の人も「とりあえず試験だけでも受けてみたら?」っていうから、とりあえず言われたことに「そうですね」と返事をするしかなかった。

そんな僕を自衛隊の人たちはどう見ていたのかは知らないけど、「とりあえず受けてみたら?」っていうわりには、話の流れは僕が試験を受ける方向に流れてるし、なんなら無言の「受けるよね?」っていうプレッシャーを感じた。

 

そんな感じで一通り説明が終わった後、「何か質問ある?」と聞かれたけど、説明を受けてる間ずっとどう断ろうか考えていた僕には質問なんか思いつかなかった。

それでも何か言わないとと思って考えたけど何も思い浮かばない。「えっとぉ」と悩んでいると、「もっと積極的にならないとダメだよ。待ってるようじゃダメ」みたいなこと言われた。

 

ごもっとも。たしかに受け身でいたら仕事なんかできないし、彼の言った言葉は間違っていない。

むしろ間違っているのは僕が自衛隊の事務所にいるという状況だった。

「なんで律義に待ち合わせ場所に行ってしまったんだろう」と、その日の朝の行動をちょっと後悔した。

まぁ住所も教えちゃったし、バックレようとしてもアパートの部屋まで来るんだろうなと思って待ち合わせ場所に行ったわけで、僕としては強制的に事務所に連れられて来たような気分だったから、「積極的になりなよ」とか言われても「何言ってんだこいつ」くらいにしか思わなかった。

 

その後、事務所を出た後も車で送ってくれたけど、その途中で試験の申込用紙に貼る顔写真を撮らされた。

お金は向こうが出してくれたから別にいいんだけど、ちょっと強引すぎない?強引な優しさって時に暴力だよね。

 

それから何日かした後もしつこく電話が来て、試験対策のアドバイスとか「入隊後に備えて運動はしておいたほうがいいですよ」とかいうのが何回も来て、面倒だからその番号からの電話を無視ししてたんだけど、そしたら番号を変えて電話かけてきた。

「ここまでするんだ」と驚いたし、それ以上にイラっとした。

それまでの電話の感じで、どう断っても食い下がられるのはわかってたから、相手が話してるのを強引にさえぎって「いやもう忙しいんで」電話を切って以来、自衛隊からは連絡がない。

 

なんかもう意地がすごい。下心丸見えなのに意地がすごい。入隊する前からこわいんで、僕には自衛隊は無理だと思う。

 

 

(追記)

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